新宿御苑方面に歩いていき、かなり古いマンションに慣れた様子で入っていきます。旦那様は全く後ろを気にしないというか、周りすらあまり見えていないようでしたので、私達も一緒のエレベーターに乗ってしまいました。探偵だとバレないために、コンビニの買い物袋に牛乳と食パンと卵パックを入れたものを持ち、住人を装っていましたが、旦那様は全く私達のことが視界に入っていません。おそらく、音楽に夢中になって周りがほとんど見えなくなってしまうのでしょう。旦那様が入った部屋を特定し、建物外から望遠レンズのカメラをセットし、見張りを続けます。
それから1時間が経過した21時に、20代後半くらいに見える黒髪の女性が部屋に入っていきます。スリム体型ながらグラマラスで、依頼者である奥様・幸子さんにどこか似ています。15分くらいすると、女性と旦那様が手をつないで出てきました。彼女はデニム+Tシャツに、グレーのパーカーを羽織っています。間近で見て感じたのは、彼女には幸子さんの持つ清潔感みたいのものがなく、どこか夜の職業の香りがすることです。
2人は近くのイタリアンバルに入ると、赤ワインとビールを頼み、ビールをチェイサーのようにして赤ワインを飲み、タバコを吸い続けていました。旦那様は楽しそうに笑っており、会話を聞くと、彼女のほうから逆ナンされて2か月前から交際をしているようでした。
旦那様は彼女の手を握ったり、肩を抱いたり、髪の毛の匂いを嗅いだりしていました。さらに会話を聞くと、彼女はコールセンターでの派遣社員を本業にしながら、パパ活のようなことをしてお金を稼いでいるようでした。
「今日はアイツが来ない」と女性が言うので、これは泊りになると確信。お店から出てきたのは23時を回っていたでしょうか。その帰り道、旦那様は強引に彼女の腕を引っ張り、物陰で抱きしめます。それから、大きくて骨ばっている手で、彼女の顔を挟んでキスをしています。ちょっと強引な感じもまた、旦那様のワイルドな魅力を増幅。この2人も美男美女だから、ドラマのワンシーンを見ているかのようでした。その後は彼女の家に帰って、お泊り。翌日8時30分に女性と一緒に出てきて、仲良く出勤していました。
その後、“この日は怪しい”という日を、全部で3回調査しましたが、いつもこのパターンでした。
「旦那様はクロでした」と依頼者・幸子さんに事前に伝えたところ、「わかっていたとはいえ、私はショックで報告書が見られませんので、兄達に行ってもらいます」とのこと。
2人のお兄様と元彼の男性が、私達の事務所にいらっしゃいました。3人とも清潔感と正義感があるスポーツマン、という雰囲気。幸子さんがその真逆のタイプである旦那様に魅かれた理由が、なんとなくわかりました。
「ありがとうございます。これで妹の幸子を離婚させることができます。それにつけても、なんだコイツは。こんな下品な女と浮気しやがって」と言い捨てて帰っていきました。
2人のお兄様も、元彼も「旦那様は離婚に渋る」と確信していたようですが、旦那様は“待っていました”とばかりに、離婚に応じたそうです。幸子さんは離婚届を提出するときに、私に連絡をくださいました。
「証拠のおかげで私の整理もつき、離婚届を出してきました。夫と話し合いをしたときに“あなたは、キレイだけど、つまらないんだもん”と何度も言われました。人生、受け身だとダメなんですね。言われてみれば、自分から夫に話しかけたり、どこかに誘ったりしたことがなかったように思います。明日から会社を休んで、どこか旅に出ようと思っています」
今回の調査費は45万円です。

別れ話の最中、旦那様は今まで家では吸わなかったタバコをひっきりなしに吸っていた。それを見て、幸子さんは離婚を確信したという。
※本連載はプライバシーに配慮し、体験内容を変えない程度に一部書き換えています。