ヘアスタイルをショートにし、いざというときのウィッグも購入し、準備は万端。……のはずなんだけど、はて? 髪の毛っていつ抜けるの?~その1~はコチラ
抗がん剤治療の始まり
人生初の抗がん剤は、入院して処方されました。
抗がん剤といってもいろいろあるけれど、私の場合は静脈に点滴するタイプで(ほとんどの場合はそうですが)、3時間くらいかけてゆっくりと注入します。人によって体質が違うので、万が一のことがあってはいけないと、初回だけは安全のために入院。2回目からは外来でOKでした。3週間おきに、計4回でした。
抗がん剤治療が始まると、だいたいの人は2~3週間くらいで脱毛が始まるといいます。
それは、ある日突然、やってきました。
その日は下の娘のピアノの発表会があり、私は紺のワンピースにパールのネックレスという「お母さまコスプレ」で臨みました。夜になり、自宅でシャワーを浴びたあと、何気なく髪をすいた指に、スーーーッと毛がついてきます。
えっ???
心の準備はしていたというものの、あまりに突然だったのでビックリしました。
テーブルの上にティッシュを何重にも敷き、指で髪の毛をすいてみました。すると、面白いほどに抜けるのです。
なんというか……。小学校や中学校の家庭科の授業で、誰でも運針を習ったと思うのですが、玉結びをしないまま波縫いした糸を引っ張ると、何の抵抗もなくスーッと抜けますよね。あんな感じです。まったく指に抵抗がないまま、引っ張ったはじから髪の毛が抜けていくのです。
いや、これ、どこまで抜けるんだろう?
気が付いたら、目の前のティッシュの上には髪の毛の山ができていました。
寝るときには、枕にバスタオルを敷きました。
乳がん患者の体験談を読むと、「脱毛が始まるとすごい勢いで髪の毛が抜けていくので、寝具が大変なことになる」とありました。タオルを敷いておくと、翌朝の処理が楽ということでした。……なんにでも知恵袋的な方法ってあるものです。
脱毛に関しては、心のなかで何度もシミュレーションをして、事前に十分に嘆き悲しんでおいたので、いざというときの落ち込みは最小限で済んだように思います。
自分の髪の毛が、まるでリカちゃん人形のようにごそっと抜けていくのは、不思議な体験でした。
結局、私の髪の毛は、正味2日間でほとんど抜けました。わざわざ引っ張らなかったらもう1日くらいは頑張ってくれたかもしれませんが、毛根がなくなった髪の毛にへばりついてもらうのはかわいそうな気がしました。
「ピアノの発表会の後でよかった」と、それだけは自分の頭皮と毛根に感謝しました。
計算違いもありました。
「ほとんどの人の髪の毛が抜けます」と、「ほとんどの髪の毛が抜けます」では、同じようでも意味が違います。
抗がん剤のダメージで髪の毛が抜けるのは事実。でも、同じダメージをくらっているはずなのに、全部の髪の毛がキレイにそろって抜けるわけではありません。
2日にわたって指ですいて、抜いて抜いて抜きまくっても、抜けない髪の毛もありました。全体の1割ほどです。
9割の髪の毛が抜けた自分の姿を鏡で見たら、「……落ち武者じゃん」と思いました。
いやいや。「髪の毛を失う」と事前に覚悟し、先に嘆き悲しんでおいたところで、まだどっか事態を美化していた自分を知りました。『エイリアン3』のシガニー・ウィーバー(マニアックでごめんなさい)になる気満々でいたら、実際には志村けんのコントに出てくる落ち武者だったよ~、的な。落差ヒューストン。
この話を後になってしたら、友人の1人が「強い抗がん剤にも負けず、抜けなかった1割の髪の毛って、ものすごい能力があるんじゃないの?その1割の毛根の仕組みとか研究したら、もしかしたらすごい育毛剤とか発明できちゃって大金持ちになれるんじゃないの?」と言ってきて、「その発想はなかった~!!」と後悔したものです。
そういうおバカな友人の発言って、がんみたいなシリアスな状況の中では、けっこうありがたかったです。笑いって、ほんと、大事です。