コラム BAが見た女の世界|全身の打撲に耐え、立ち去る姿はまるで武士!?そこ、ホメるところ……?

ライターの高木沙織です。

試験に落ちる、気分が落ちる、化粧が落ちる、恋に落ちる……。あ、最後の素敵。

辞書で調べると、“落ちる”の意味や用例は多種多様です。そして、その多くに対して何かしらの経験や心当たりがあったりするんですよね。じゃあ、「支えるものもなく、ものが加速度的に下に移動する意」はどうでしょう? ちなみに“物”ではなくて“自分”が、です。

実は私、BA(ビューティーアドバイザー)時代にある種の事故でこんな“落ちる”を経験しました。今でも思い出すと、痛くて涙目になっちゃう!

嵐の夜にご用心……

あれはある遅番の日。

免税店の店長:「今日は雨風がすごいから、夜のフライトがキャンセルになるかもしれないね」

フライトがキャンセルになるということは、出国審査場のその先にある免税店にお客様が来店することもなくなるということ。

なのだけれど、店を閉めるのはいつもと同じ時間。お客様がいないからといって「はい、閉店です」とはいきません。いろいろと作業もありますし。ただその代わりに、悪天候の日は免税店の責任者と、各ブランドの責任者の判断によってそれぞれひとりのBAのみを売り場に残し、ほかのスタッフは帰宅させるのが慣例だったんですね。

もしかして……?

えぇ、残るのはいつも私。

ですがこれには理由があって、私も納得していました。というのも車通勤をしていたんですよ。それも自宅から空港まで20分と近距離。なので、いつ運休になるかわからない電車通勤組は早々に帰宅させて、自力で帰ることができる車通勤組が残って閉店作業を済ませることになっていたんです。

話は戻って、この日は店長の予想通り、夜のフライトは全便欠航になりました。

私たちもいつもより早めに閉店作業を始め、時間になったらすぐに帰ることができるようにスタンバイ。

免税店の店長「はい、お疲れさまでした。みなさん、運転にはくれぐれも気を付けて帰ってくださいね」

その言葉を合図に一斉にロッカールームへ。着替えを済ませて、職員用の通用口に向かったのですが……。

そこで事件、いや事故が起こったのです。

階段から転落、そのあとの行動にみんなビックリ!

空港内には従業員用の駐車場がいくつかあります。それなのにみんな同じような区画を契約するものだから、駐車場に向かうための職員用通用口までのちょっぴり長い道中までもが一緒になってしまうというわけ。

仲良く一緒に帰っていくBAたちを横目に、私はひとり。

着替えの最中から聞こえていた激しい雨風の音に……。

(天気悪すぎ、嵐じゃん。早く帰らなきゃ!)

そう思って、足早に階段を下っていたそのときです。

(あっ!?)

階段の上から2段目くらいの高さから踊り場まで、前のめりの姿勢で一気に転落。屋内ではあったのだけれど、悪天候のなか出退勤した人たちの足跡だったりで階段はビショビショ、ツルツル。不注意と運の悪さから水が溜まっていた場所をちょうど踏んでしまったようなのです。

よく耳にするけれど、“危ない!”のその瞬間は本当にすべてがスローモーション。

左側にある手すりをつかんで止まろうとするのだけれど、意思と反して重力のままに落下する速度では至難の業……。身体が止まりません。

自分の声だったのか、うしろから歩いてきていた人たちの声だったのかわからないけれど、「キャー!!」という悲鳴のあとに“ドンッ!”という鈍い音。うつ伏せの姿勢で踊り場に倒れました。

遠くに飛んでいったバッグの中からは荷物がバラバラと。

奇しくも生理中だったこの日。無造作に突っ込んだ生理用品が飛び出しかけていて、残念過ぎる……。右手の先には傘も。

(傘が身体に刺さらなくてよかった。でもこれ死んだかも……ううん、死ぬ前にナプキンをしまいたい)

と、意外と冷静。

転落している本人にはわからなかったのだけれど、落ちている最中からなかなかの物音だったのでしょう。階段の上には次々と人が集まってくる気配がします。

倒れて動かない、というか動けない私を見た誰かの悲鳴とざわつき。すると突然……。

ムクッ!

まわりの人たち「えっ!?」

このときの私の頭の中はこうです。

(恥ずかしい!)
(ナプキン見られたくない!)
(人に迷惑をかけたくない!)

本当は身体中が粉々になったかのような痛さなのに。

死力を尽くして起き上がり「すみません……」、と一言残して荷物をバッグに戻し、何事もなかったかのように車へと向かう姿は怪我を隠して立ち去る武士のようではありませんか。

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