コラム 自転車かごに入れられた花束とケーキの贈り主は誰?恋愛ドラマが刑事ドラマに変わった日【後編】

アルム詔子の「日日是迷走」。

今回は、夢のような「恋愛ドラマ」が、一瞬で「刑事ドラマ」のような展開になってしまったという話。

後編は、花束とケーキの贈り主が当時の恋人ではないと判明したところから。

【前編はコチラから】

もしや、予想外の「前夫」からのプレゼント…?

「彼じゃ…ない…?」

私は、愕然とした。それこそ、「恋愛ドラマ」の主人公ばりの混乱である。それでは、この目の前にある花束とケーキは、一体、誰が置いたというのだ。

少しずつ、自分の身体から「熱」が失われていくのが分かった。

そうだ…そうだよな。落ち着いて考えれば、すぐに分かることだ。誕生日さえ、特別に祝う習慣のない人だった。それなのに、何の理由もなくサプライズだなんてあるワケがない。それに、そもそも合鍵を持っているのだから、何も、自転車かごに置く必要なんてないのである。

そんなコト、ちょっと、考えれば気付くことなのに…。

先までの勢いはどこへやら、私はぴゅうーと空気が抜けた風船のように、しょぼくれた。そうだよ、そうだよな…そうなんだよ…と、独り怪しくぶつぶつと呟いて、目の前の花束とケーキを恨めしそうに見た。

そして、一拍置いてから、「あっ」と思った。

そうだ、考えられる贈り主は、もう1人いた。

ヤツだ。「前夫」である。

離婚してから2年ほど経つが、私たちは決して憎み合って別れたワケではない。離婚して1年間は、毎週のように夕食を共にしていたし、なんなら何度も復縁も迫られていたという経緯があった。しかし、いつしか、互いに元サヤには戻れないと気付き、自然と離れたのである。

私には新しく付き合いだした彼が、前夫にもようやく新恋人がデキた。そして、ようやく年に数回だけ連絡を取り合う仲へと落ち着いたのだ。ちなみに、前夫は大のサプライズ好きだ。そもそも、あの青い自転車を買ってくれたのも彼だし、私の住んでいるマンションも知っていた。

確かに、こういうコトをするのは、彼しかいない。私は、そう確信したのである。

それにしても、6月…って。なんか、記念日あったっけ?

まさか、再婚するのか…?

それこそ、彼ならありうる。再婚するにあたって、前妻よ、ありがとう的な感謝のしるし…? それならアリだ。世間一般では絶対にナシだが、彼の頭の中では、アリ中のアリだ。でも、それはそれで、なんだか微妙だな…。そんなことを思いながら、彼に電話をして確かめた。

「えっ? オレじゃないぞ。それよりも、その花束とケーキって大丈夫か? 変なモノとか入っていないか? 一旦、外に出せよ」

彼が、カードを見ろとか、とにかく家の外に置けとか、色々と指示してくる途中で、私は急いで電話を切った。先までキラキラと輝いていた花束とケーキは、既に色褪せていた。あれほど嬉しかったプレゼントなのに、悲しいかな、今はもう、正体不明の「ブツ」でしかなかったのである。

あと、考えられるのは…。

機械的に一応考えてみた。強いていうなら、同じ京都に住む実家の家族と親友くらいだろう。絶対にその可能性はないと知りながら、あえて、メモに書き出した。

しかし、書いてみて思った。やはり、そんな可能性はゼロだ。

家族や友人たちであれば、連絡の1つくらいあるはずだし、そもそも論として、食べ物を、誰が通るか分からない「自転車置き場」などに置くことなんてしない。

結局、花束とケーキには申し訳なかったのだが、次の日に処分した。

そして、恋愛ドラマにありがちな私の「ドキドキ感」も、可哀そうだが、瞬時に消えたのである。

それからしばらくしたのち、いつの間にか季節も移り変わり、私はすっかりこの出来事を忘れてしまった。いや、正確には、故意に忘れようとしたのだろう。舞い上がった自分がとても情けなかったし、恥ずかしかったからだ。私の中で、この記憶は、きっちりと封印されたのである。

その1年後。

6月のとある日のこと。

私は、またしても、同じマンションで、信じられない光景を目にするのであった。

──コレって、デジャブ?

見覚えのある、自転車かごに入れられた花束とケーキ。

こうして、突然にも、2回目の謎が、私の元へと送られてきたのである。

2度目の花束とケーキの贈り物…どうして…?
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