コラム 京女の移住体験記│上からボトッ…!? 北海道での「続・虫との仁義なき戦い」最強の刺客現る! 【後編】

未知の生物VS裸の名もなき男

──またしても頭上から

──ぼとっと落ちてきた

この事実だけなら、私はここまで壊れたスピーカーのように悲鳴を上げ続けなかっただろう。

とにかく「ソレ」は動くのが異様に早かった。早すぎるから、具体的な姿もほとんど分からない。ただ、G(ゴキブリ)でないのは確かだ。一瞬だが、見た感じは「もさもさした未知の生物」というコトくらいで、正体は一切不明である。

私は一歩も動けずに、ソレが台所を縦走するのを見ながら、ずっと悲鳴を上げ続けた。現実にパニックに陥いると、勝手に声が出て、自分の意思では止められないのである。

さすがに私の異変に気付いたのか、彼が慌ててシャワーの途中で出てきた。水を滴らせて、腰にタオル1枚のみという姿である。

「なに? どうした? 何があった?」

「あーゔー」

あまりの衝撃に、私は言葉も出ず、冷蔵庫の陰を指さした。

「なんだ、虫か」

クモか何かと思ったのだろう。彼も慣れたもので、プラスチック容器を取りに行き、冷蔵庫ににじり寄った。

暢気に「どこらへん?」と、例の容器片手にしゃがもうとしたその時、ソレは突然、冷蔵庫の後ろから飛び出してきた。異形な全貌を現し、反撃に出たのである。

「うわあ。ええええ?」と彼。

その姿かたちは、グロテスクそのもの。ムカデのもっと手足が多いバージョンで、モサモサしたフォルムがなんとも特徴的だ。極めつけは、ゴキブリ並みの速さ、いやそれ以上の突破力でこちらに突進してくるところである。

私はその姿を見て、またしても立ちながら失神した。彼も今回ばかりは慌てたらしく、前を隠していたタオルも落ちるに任せ、「あれ、なんや? うわあ。なんや。おい、どこ行った?」と容器片手に右往左往。彼の場合は、パニックになると、とにかくひたすら喋り倒すようだ。

その後ろ姿が裸族のようで、今度は笑いが止まらない。衝撃と緊張の反動で、またしても笑い声が止まらないのだ。こうして私が早々に壊れた一方で、彼は素っ裸で行ったり来たりを繰り返す。そして、苦心の末、ようやくヤツを部屋の隅に追い込んだ。

「おっ」「あっ」と掛け声のようなものが続く。

やっと捕獲成功と思いきや…。

「ああああああ!」

彼の短い咆哮が部屋に響いた。

「なになに? なんなん?」と私。

「いや。だって。動くから」と彼。

「…」

彼の少ない言葉を訳すと、プラスチック容器をかぶせたところ、異様な速さで動いたために、うまくかぶせられず絶命…。私は3度目の悲鳴を上げたのである。

それから暫くしたのち、ようやく落ち着いた私たちは、小さな亡骸を北海道の大自然に返すことにした。

あとで聞けば「ゲジゲジ」という名前らしい。なんと驚くことに、益虫だというではないか。京都弁でいえば、「ぎょうさん足あって、あんな気色悪いなりしてても、ええもんどすえ」的なコメントとなるだろう。

あああ。どうせなら、G(ゴキブリ)と同じ害虫でいて欲しかった。それなら、新聞紙を丸めて、罪悪感なくパコーンと叩けるものを。私は恨めしそうに、台所のシンクを眺めた。

その後。

最強の刺客「ゲジゲジ」は、懲りずに再び私たちの元へとやってきた。春そして夏と、短い期間ではあるが、2年目そして3年目と戦いを挑んできたのである。ただ、彼らは「益虫」だ。そのため、私たちは大胆にも戦闘回避へと方向を転換した。

「続・仁義なき戦い」の最終決戦は、予想に反して、冷戦のような結末を迎えたのである。

ちなみに、毎回、虫が落ちてくる戸棚だが、1ヵ所だけ小さな穴が確認できた。しっかりと、ガムテープを張ってふさいだのだが、それでも安心などできない。

もちろん、戸棚自体を完全封鎖したことは言うまでもない。

※ゲジゲジの姿を掲載しようと思ったものの、苦手な人は耐えられないかも…と断念。ご興味ある方は検索してみてください。

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プロフィール

ライター/コラムニストアルム詔子

京都府出身のアラフォーライター。バリバリの組織人だった仕事漬けの生活を終わらせて、念願のフリーランスに。スタートは法律・教育・ビジネス関係のライターだが、今は歴史関連、神社仏閣、トラベル、職人探訪など分野を広げて取材、執筆を行っている。

プライベートでは、結婚・離婚・事実婚の「三婚」を経験。現在はパートナーと共に、日本各地を移住する生活を継続中。当サイトでは、「日日是迷走」のほか、事実婚までの道のりを綴った「おひとりさま脱出記」や、「京女の移住体験記」、不思議な話を集めた「5.5センス、信じますか?」を連載予定。