コラム 京女の移住体験記│「立山」挑戦まであと2週間。標高754mの中級へとレベルアップした結末【後編】

キミ、そんなにポテンシャルが高い食べ物だった?

一時は、水筒の取り合いにまで発展しそうになったが、なんとか争いを回避した。「ここまで運んだのはオレ」との言葉に反論できず、シェアしたのである。

気を取り直して、最終目標となる「小佐波御前山」を目指す。来た道を少しだけ戻って、再び舗装道路を進んだ。本来であれば「御前山」まで1時間半弱のところ、もう既に2時間が経過していた。やはり、時間通りにはなかなか進まないようだ。

ただ、これには理由がある。脚力のなさだけではない。じつは、季節の問題もあった。当時は9月半ばだ。決して日差しはきつくないが、虫対策のために着用していた長袖が蒸れて、体力を消耗したのである。

さらに、ずっと歩き続けているため、体温はじわじわと上昇。汗が噴き出て止まらず、目の上からポタポタトと落ちてきた。こうなっては、格好など構っていられないと、首にかけていたタオルを、風呂上がりのように頭にぐるりと巻くことにした。

だから登山は…と愚痴を言いたいのをこらえて、時折ナッツを頬張りながら、昼食のことだけを考えた。待ち遠しいなどと思っていると、今度は「獅子ヶ鼻岩(ししがばないわ)」という案内板を発見した。ネーミングから想像するに、きっと獅子の鼻のような場所なのだろう。少し寄り道して、そちらに向かった。

生い茂った木々の間を縫って進んでいくと、急に視界が開けた。その先には、意外にもゴツゴツした岩場が見えてきた。どうやら、先端には30mほどの巨大な岩が突き出しているようだ。

説明板によれば、獅子が谷を見下ろしている様子から「獅子ヶ鼻岩」と呼ばれているのだとか。限界まで前方に出る。後ろから彼に支えてもらって先端近くまでいくと、その先には見事な景色が広がっていた。

「獅子ヶ鼻岩」から。信じられないほどの絶景です。下に見えるのは「神通峡」(筆者撮影)

気を良くして暫く進んだ。アップダウンを繰り返し、とうとう正面に見えてきたのが山頂だ。どれくらい歩いたのか、気付けば「小佐波御前山まで0.6㎞」の案内板が見えてきた。いつも思うのだが、山頂間際の道は必ず急斜面となる。前回の「尖山」もそうだったが、今回もやはり、これだけは避けられないようだ。最後の気力を振り絞って階段をのぼった。

ぜいぜいと肩で息をしながら上の段に着くと、平坦な道に出た。もっと絶景が広がっているかと思ったが、意外にもここが山頂だという。そこから少し離れたところに広場があったので、この場所で休憩を取ることにした。

2人して、広場のベンチに腰を下ろした、ようやくの、待ちに待った「登山メシ」である。

彼のリュックから取り出されたのは、2人分の白く輝く「おにぎり」だ。あまりの眩しさに目を細めた。それも、豪華な鮭ハラミや黒毛和牛などの具材入りのものではない。シンプルで一番安い「塩おにぎり」だ。

彼の持論では、色々な具材が入った味の濃いものよりも、「塩」のみで味付けされたおにぎりが一番うまいはずだという。そう、自信を持って強く言い切った彼に、私も賭けてみたのである。

袋を破っておにぎりを取り出した。頂上へと辿り着いたときの得も言われぬ達成感。そこに、周りをぐるりと囲む見事な景色が加わる。ほどよい疲労、そして、エネルギーの枯渇で身体中から湧き起こる、あの空腹感。

満を持して登場したのは、シンプルな「塩おにぎり」だ。ぱくりという瞬間に、口の中に塩の強烈な旨味が広がって唾液が炸裂した。

驚いた。な、なんだコレは? 「塩おにぎり」のポテンシャルが高過ぎやしないか?

「な?」と彼。

この一言で、全てが伝わった。ほら、言った通りだろ。おにぎりを頬張っている彼の顔から、そんな言葉が読み取れた。

「うん」と私。

じつのところ、それしか答えられないのだ。あまりの激ウマに、少し涙が出てしまったくらいである(決して、年のせいではない)。

こうして、登山メシに満足した私たちは、その後、奇跡的に体力回復に成功。

さらに3時間以上かけて、なんとか下山することができたのであった。

もちろん、家に帰り着いた2人が、ソファから1歩も動けなかったのは言うまでもない(次回はいよいよ「立山」に挑戦です!)。

「小佐波御前山」の頂上の横の広場です。ここで「塩おにぎり」を食べて泣きました(笑)(筆者撮影)
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プロフィール

ライター/コラムニストアルム詔子

京都府出身のアラフォーライター。バリバリの組織人だった仕事漬けの生活を終わらせて、念願のフリーランスに。スタートは法律・教育・ビジネス関係のライターだが、今は歴史関連、神社仏閣、トラベル、職人探訪など分野を広げて取材、執筆を行っている。

プライベートでは、結婚・離婚・事実婚の「三婚」を経験。現在はパートナーと共に、日本各地を移住する生活を継続中。当サイトでは、「日日是迷走」のほか、事実婚までの道のりを綴った「おひとりさま脱出記」や、「京女の移住体験記」、不思議な話を集めた「5.5センス、信じますか?」を連載予定。