アルム詔子の「日日是迷走」。
今回は、旭川のとある店の衝撃の接客術についての記事である。
後編は、私とパートナーの彼が、覚悟を決めてテーブル席についたところから。
爆笑必死の謎のオーダー制
店内を見渡すと、3名の1人客はいずれも若い男性ばかり。「安くて旨い」のだから、ひょっとすると、学生御用達の店なのかもしれない。食事済みではなさそうだから、3名ともステーキを待っているようだ。
そのうち、壁側の1人席の元へステーキが運ばれてきた。鉄板からジュージューと音が漏れて、美味しそうである。途端に、私のお腹の音がぐうーと鳴った。
時計を見れば14時。残念ながら、私たちのところへは未だオーダーすら取りに来てもらえない状況だ。ただ、観察してみると、コレも仕方ないことだと諦めた。というのも、店内にいる店員は彼女だけ。いわゆるワンオペで、ランチの時間帯を回しているのである。そりゃ「時間がかかる」と事前に通告したくなるのも分からないでもない。
大人しく催促もせずに待っていると、ようやく彼女が来た。
ちなみに、待たせて遅くなったとも何のコメントもなし。クールな彼女は、あっぱれ、堂々としたものである。なんだか、コチラの方が申し訳ない気になるのはなぜだろう。
早速、私と彼はハンバーグとステーキのコンボにした。ステーキは重量を選ぶことができ、迷いながらサイズを決めていると、ここで、彼女は私たちに謎の忠告を1つした。
「あとで言われても時間がかかるので」
無表情なうえに、これ以上の質問は受け付けないという強めの「圧」があった。いまいちよく分からん一言だったが、「はあ…」と私と彼は頷いた。店員が1人だから、注文は一気にしろというコトなのか。
「ご飯、どうする?」と私。
「多めにするか…」と彼。
「足りなかったら、私の分もあるし」
「そうだな」
こうして、無事にオーダーも済ませ、私たちは、ひそひそ声で話をした。
「スゲーな…」
「まあ、忙しいんじゃない? だって、1人なんやで」
「それでも…」
彼は何か言いたそうだったが、私は彼女を観察することに決めた。じつに何役もこなす彼女は大変そうだ。オーダーが終われば、カウンターの向こうでステーキを焼く。仕上がれば席までサーブまでする。終われば次の客のステーキを焼くという繰り返しである。
ただ、同時並行することはないようだ。もちろん、後片付けまでは手が回らず、放置されていた。脂でベトベトなのも、すべてはワンオペという理由で納得した。
それからおよそ10分後、2番目の客の元へステーキが運ばれた。このすぐあとで、私たちの元にセットのサラダだけが運ばれてきた。未だステーキを提供されていない客はあと1名。つまり、私たちの順番はもうすぐというコトだ。まあ、20分もあれば運ばれてくるだろうと思っていると、ここで、予想外の出来事が起きた。
なんと、カウンターへと向かう彼女に向って、1番目の客が声を張り上げたのだ。
「すみません!」
少しイラっとしたような様子で、彼女は1番目の客へと戻った。
「あの…ご飯、お替りをしたいんですけど…」
「単品追加でなく、無料のお替りですか?」
「ああ、はい…」
見るからに気の弱そうな男性である。ステーキの量が多くて、ご飯が少なかったのか。お替りは無料だから、気安く声をかけたのだろう。
そんな彼に向って、クールな彼女は、信じられない一言を発したのである。
「今あるオーダーの最後になるので、時間がかかりますが?」