アルム詔子の「京女の移住体験記」
今回は、地方の選挙活動のオモシロ体験についての記事である。
前編では地方選挙の実情を書いた。
さて、後編では、地方ならではのありえない選挙活動をご紹介していこう。
北海道T町の選挙活動の模様である。
ウグイス嬢は…意外なあの人?
「なあ、気付いた?」
昼休み、昼食を食べに帰ってきたパートナーの彼。なんだかニヤニヤしながら、私の方を見る。
「何が?」
「あれ」
指差した方向に、1台の選挙カーが見えた。都会で走っているようなご立派なものではない。
──〇〇〇〇(候補者のフルネーム)は、T町を住みよい町に変えていきます!
車から流れてくる候補者への投票のお願いは、やけに臨場感がある。途中、少しだけその声が詰まったところで、録音された音源ではないコトに気付いた。そうか。実際に車に乗って、誰かがアナウンスしているのだ。
ただ、言ってはなんだが、素人感丸出しの音声だった。
私の記憶するウグイス嬢とはかなり違う。京都のまちなかを走っていた選挙カーのウグイス嬢は、どの人もすごかった。声質やイントネーションなどアナウンサーのような話しっぷりで、常に安定していた。加えて、声優顔負けの表現力で、必死さを醸し出していたのである。
「気付かない? この声」
そう彼に訊かれても、いまいちピンと来ない。
「向かいのさ、〇〇さんの奥さんだって」と種明かしをしてくれた。
確かに言われれば…。
最近、朝にあまり姿を見ないと思ったが、選挙活動に駆り出されていたというワケか。
「なんでまた?」
「店で顔なじみになって、頼まれたらしいよ」
さすが、田舎の町である。すぐそばのご近所さんが、ウグイス嬢だなんて。不思議な感覚だ。これも、小さな町あるあるの選挙事情だろう。
それから数日後。
投票日が近付くにつれて、何台もの選挙活動の宣伝カーが町を行き交うようになった。なんせ、森林が9割を占める町である。人間の住む場所が限られているT町では、同じ場所を宣伝カーが往復する事態となる。
その日は、午前中から騒がしかった。いよいよ投票日が迫ってきたせいだろう。うちの近くの道に、何台もの候補者の宣伝カーが入れ替わり立ち替わりでやってくる。
ただでさえ、リモートワーク中である。それも、安定したアナウンスではないから、聞いていられない。それでも、なんとか午前中は気力で乗り切った。しかし、午後になると、次第に私の集中力にも限界が近付いてきたのである。
そんななか、コトは起こったのである。