コラム 引っ越しトラブルに巻き込まれないために、事前にできることを弁護士が解説します

春は、進学、就職など新生活が始まる季節であり、引っ越しをされる方も多いかと思います。
そして、引っ越しにまつわるトラブルは、とても不安なものです。

筆者は、学生のころに友人から「今住んでいる部屋から引っ越しをするので、敷金の返還をお願いしたら、逆に原状回復費用として50万円を請求されてしまった。どうすればいいのか」と相談され、大変驚いたことがありました。

友人としては、窓際の壁紙が日焼けをしているし、冷蔵庫裏の壁には電気焼けがあるとのことで、何かしら修繕は必要なのだろうとは思ったものの、敷金分の他に50万円というのは想定していなかったとのこと。

当時は、今のようにインターネットの豊富な情報もなく、筆者も学生で、どうしていいかもわからず、2人で真っ青になっていました。
さて、顛末は……。

今回は、引っ越しに関するトラブルのうち、原状回復について考えてみたいと思います。

原状回復は、借りた当時の状態に戻すことではない

引っ越しで部屋を出るときのトラブルで多いものとして、原状回復の問題があります。
原状回復というと、退去するときに部屋を元の状態に戻してきれいにしていくというイメージかと思います。

原状回復については、トラブルが多いため、国土交通省で目安となるガイドラインを出していて、誰でも国土交通省のホームページからダウンロードすることができます。
ガイドラインによると、原状回復とは「通常の使用方法を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」です。

つまり、原状回復は「通常の使用方法を超えるような使用」でついた傷などを修復すること等を指し、賃借人が借りた当時の状態に戻すこととイコールではありません。

部屋は誰が住んでも摩耗するので、「通常の使用方法」によって減った価値の分は原状回復の範囲に含めず、賃借人は費用を負担しなくてよい、という考え方をガイドラインはとっています。

「通常の使用方法」かどうかは、手入れなど賃借人の管理が悪かったのか、故意過失があるか等によって判断されます。

例えば、太陽の光を日常生活で避けることはできないので、普通に暮らす中で日照によって生じたクロスの変色やフローリングの色落ちは、ガイドラインの基準によれば「通常の使用方法」によるものとされると考えられます。

長期間居住している場合には、費用を負担しなくていい場合も

ガイドラインでは、居住年数が長いほど賃借人の負担割合を減少させるという考え方も採用しています。

これは、経理を担当されている方などにはおなじみの「減価償却」の考え方に基づくものです。
減価償却とは、物の価値は年数が経つのに応じて減っていくという考え方です。

例えば、カーペットやクッションフロアは、6年で残存価値が1円となると考えて、賃借人の費用負担を考えることになります。
カーペット等も年数が経てば当然古くなりますし(経年劣化)、経年劣化の分は家賃として支払っているので、劣化分は賃貸人が負担すべきということです。

なお、カーペット等のように居住年数の長さを考慮する物と、ふすま紙や障子紙のように居住年数を考慮しない物がある点には注意が必要です。

原状回復の費用を負担するかどうかについては、「通常の使用方法」かどうか、「居住年数を考慮する物」かどうか、という2点がポイントとなります。

引っ越しで大きな家具を移動させた際に大きな傷に気づくことも……。
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