堅実女子ニュース&まとめ 底なしに怖い!働く女子の琴線にビビビっと触れる、映画『よこがお』に潜む恐怖の正体

■筒井真理子の女優力に圧倒!

主人公の市子を演じる筒井真理子は、なんだかもう、スゴイことになってます。『淵に立つ』の深田晃司監督とはよほど相性がいいのでしょう。例えばこんなシーン。なんとなく正体を偽っている、でもそれを悟られまいとごくナチュラルにそこにいる――みたいな、よく考えたらとてもミラクルな演技をサラっとやってのけて不自然さがありません。それでいて、そのシーンで提示しなければならない「小さな違和感」を観客の心の奥にしっかりと刻みつけます。また別のシーンでは、ちょっとした表情で彼女の現実的な心情が手で触れるくらいすぐそこにあるように思えるのです。またまた別のシーンでは突然、BOWWOW!みたいな犬の咆え声を真似るのですが、ただそれだけなのに「……なんか怖い」みたいなことになる。とにかくすげぇのです。

個人的に衝撃だったのは、市子のある夢。公園にやってきた市子は、四つん這いでドスどすと歩いています。その必死の形相、ふだんはどこか上品な佇まいの市子が……四つん這いって!その異様さと言ったらありません。しかもそこにコミカルさは微塵もなく、その後なんども繰り返してその映像が脳裏によみがえり、背筋がゾクっとするほどの恐怖を覚えます。なんなのだろう、これ?そうしたシーンを一つひとつ撮影現場で積み上げていったのかと思うと、筒井真理子という人の女優としての力に圧倒されます。

そんな市子が出会う和道を演じるのは池松壮亮。『だれかの木琴』でも常盤貴子演じる主婦を狂わせる色気たっぷりな美容師を演じていましたが、この映画の池松もかなりのお色気。女性の髪に触れるときの手つき、肩の力が抜けた佇まい、そしてあの、人としての奥行を感じさせる眼差し。モテるよね~!みたいな在り方を絶妙なさじ加減で表現します。いやこの人はただそのままで、モテるよね~!って人なのかもしれませんけど。
 

市子役の筒井真理子と、和道役の池松壮亮。こんな美容師に髪を切ってほしい!

■他人事として観られない、市子の絶望

市子を慕う基子を演じる市川実日子はなんとなくいつもサラっとした印象で、飄々とした空気をまとっている女優さんに思えます。どろどろとした感情とは無縁、年齢を超えたかわいらしさや透明感が存在の核、みたいな。そんな彼女が市子を慕う、けれどゾワっとした攻撃性を備えてもいるとても複雑な役を演じます。だからこその、奇妙な説得力。深田監督はキーとなる場面ではわざと逆光にして、真っ黒な陰が覆う彼女の顔からその表情を読み取らせようとします。そんな演出も基子という役柄をより印象的にします。

そして深田晃司監督です。その演出の隙のなさ、これだけ微妙なさじ加減を求められる世界観を、隅々まで誤ることなく構築していく粘り強さ、繊細さ。これまた、すげぇ!のです。映画のラスト、これほどにドキドキさせるカットはなかなかありません。本当に恐ろしい。そしてふと、この怖さの正体はなんだろう?と考えてしまいます。この映画を思い出すとき、なんども脳裏に浮かぶ市子の四つん這い、BOWWOW!みたいな犬の咆え声。内に秘めた市子の絶望が、ひしひしと胸に迫るのです。女をやってるのは大変なんだよ! いや、そんな単純な話ではありません。でもしかし……。

映画は第72回ロカルノ国際映画祭へ正式出品が決定しました。そりゃそうだ!のクオリティー。暗闇の中、ひたすら画面と対峙するために、一人で映画館へ行くことをオススメします。

基子役の市川実日子(左)と、市子役の筒井真理子。この二人の間に、なにが?

文・浅見祥子

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