スーパーヒーローではない主人公
過去の経験が役立たないとすると、役づくりはどのようにしたのでしょうか?
「そもそもこの映画自体、こんなに挑戦していいの?と感じることが多かったです。経験上、そう思う瞬間が。でもそれだけ挑戦するのなら、自分も過去のルールじゃないところで勝負すれば、もしかしたら突破口があるかもしれないなと。じゃあそれでなにが出来るだろう?そこから考え始めました」

「過去の経験値が通用しないものだけやろうと思ってた」と語る大沢さん。
オファーの段階で台本はあったのでしょうか?
「なかったかな、そのときはまだ。それでオリジナルのいい点は、話をどんどん変えていけることですよね。最初のミーティングからプロデューサーも監督も“もっともっと変えられると思う”という視点を持っていて、実際にそうした意見交換が多くありました。それで台本は何稿も変わり、どんどんよくなっていったんです」
その過程で、桐生浩介というキャラクターはどのように生まれたのですか?
「もしここまで自由があるならば、桐生のキャラクターもスーパーヒーローではなく、ふつうの人だったらどうかな?と思ったんです。こんなエンターテイメント大作の主人公なのに、完璧じゃないし怖がるし、トム・クルーズみたいに戦えないというような。そんな主人公を僕は演じたことがなかったし、そもそも映画でそんな主人公が成立するのかな?って。でも“自分の感覚を信じてそこにトライしたい”と、プロデューサーや監督を交えて徹底的に話しました。そうして、もちろん監督が納得出来るカタチでどんどんまた台本を変えていったのです」
初稿と比べると、大幅な変更が?
「それは僕よりプロデューサーに聞いた方がわかるかも。どれくらい変わったか、わからないくらいに変わったのでもう覚えてないんですよ。ただ……なんかやたらに新しい台本が出てきたのは確かですね」
いかにも映画っぽいアクションではなく

スーパーヒーローではない、AI開発者・桐生浩介。
アクションシーンもありましたが、肉体的な準備はどのようにしたのでしょうか?
「それはもともと大丈夫なのですが、アクションに関しても、いかにも映画っぽいものは止めようよって。もし桐生がトム・クルーズみたいに走ってきたら、その時点でダメだと思ったんですよね。そうじゃないところで表現したくて、そこも監督とたくさん話し合いました。例えば誰かの旦那さんや恋人が突然追われる身になって走り出しても、スマートには走れないですよね。しかも桐生は学者ですから。走って逃げると言っても疲れちゃってボロボロになるはずで、そういうヒーローがいいなと。観終わったあとに、もしかしたらこの人はヒーローみたいなお父さんだったのかも?と思っていただくくらいの。でも映画を観ている間はふつうのお父さんのようにもがき苦しむ。数学やプログラミングに関しては優れているけど、その他はある種の欠落を抱えた人間だと。自分の中ではそんなイメージを表現しようという挑戦でした」
大沢たかおさんが、休業を経て改めて演じることと向き合って感じたこととは?~その2~に続きます。
文・浅見祥子 撮影・深山徳幸