堅実女子ニュース&まとめ 取材NGを通した孤高のファッション・デザイナー、マルタン・マルジェラのドキュメンタリー映画。その肉声から伝わること

デビューから一貫して取材、撮影を拒んで匿名性を貫いた伝説のファッション・デザイナーを追う映画『マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”』。

その高すぎるハードルを越えて彼の信頼を得たのは、『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』のライナー・ホルツェマー監督。

マルジェラは顔さえ見せないものの、カメラの前で、幼少期の思い出から現在に至るまで、ごくリラックスした語りで振り返ります。引退から10年以上、「ほとんど社会運動だった」と専門家が語るマルタン・マルジェラの軌跡。そこから、見えてくるものとは?

(c)2019 Reiner Holzemer Film-RTBF-Aminata Productions

『マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”』
(配給:アップリンク)●監督・脚本・撮影:ライナー・ホルツェマー ●出演:マルタン・マルジェラ(声のみ)、ジャン=ポール・ゴルチエ ほか ●2021年9月17日(金)よりホワイトシネクイントほか全国順次公開

【Story】
ジャン=ポール・ゴルチエのアシスタントを経て、1988年に「メゾン マルタン マルジェラ」を創設したマルタン・マルジェラ。翌年、パリコレデビューを果たす。日本の地下足袋に着想を得たという「タビ」シューズ、スカーフやイブニングドレスなどの古着を使ったシリーズ「レプリカ」等、革新的な作品を発表。1997年から2003年まで、エルメスのウィメンズプレタポルテ部門のアートディレクターを務めた。そして2008年、「メゾン マルタン マルジェラ」を引退する。

「ボクの名前は、作品と共に記憶されて欲しい」

映画は2008年9月29日、パリで開かれた「メゾン マルタン マルジェラ」20周年のショウから始まります。

真っ暗なステージに立つモデルは顔をベージュのストッキング……じゃなくてヴェールで覆い、カメラに向かってウォーキングしてきます。

暗闇の中に浮き上がるのは、「トロンプルイユ(だまし絵)」の手法を使ったカットソー。モデルの顔が見えないと、確かに服そのものに意識が集中します。そうして目にしたデザインは10年以上経っているのにどこか新しい! と思わせるし、奇抜なようでじつはシンプルに作品を見せることに徹した演出はショウへの吸引力を増すよう。

「彼はファッションを変えたの、最後の革命児ね」という専門家の言葉も決して大げさに響きません。そしてマルタン・マルジェラはこの日、51歳でファッション界を引退するのです――。

映画が始まって数分、ファッションに疎い人間でも、あっという間にマルタン・マルジェラという人物に心惹かれました。

いったいどんな人物なのでしょう? 彼自身はデビュー以来、キャリアを通していっさい公の場に姿を現さず、インタビューや撮影を拒絶したまま。ひょっとして、そういう戦略? と思うもそうではないらしいのです。

「セレブリティになりたくない。匿名でいたい。みんなと同じだと思うと、バランスを得られる。ボクの名前は作品と共に記憶されて欲しい、顔じゃなくて」、淡々と語るその声の柔らかくて落ち着いた調子は、嘘や虚飾と無縁であるように思えます。

それでいて映画を通してじわじわと響いてくるのは、彼の服や仕事への真摯な姿勢と純粋な愛なのです。

監督は『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』でもファッション・デザイナーを追ったライナー・ホルツェマー。

誰に相談しても「マルタン・マルジェラをカメラの前に引きずり出すのは不可能」と言われても諦めず、「僕の作品を観れば信用してくれるはず」と希望を捨てず、ラッキーも重なって映画製作がスタート。マルタンにワイヤレスマイクをつけ、いつでも録音できるような状態を整えてリラックスさせ、撮影を進めました。

そうしてファッションデザイナー、マルタン・マルジェラに焦点を当てているのに本人の顔はいっさい登場しないという、かなり異色のドキュメンタリー映画が完成します。

けれどだからこそ、その声、その語り、例えば幼いころに遊んだバービー人形のカツラや着せ替えの洋服を扱う手つきの繊細な動きが多くを語っていくのです。

マルタン・マルジェラの手つきにも注目。
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