堅実女子ニュース&まとめ 【東京深夜0時、結婚しない女】「幸せはお金で買える」海外ブランド正社員・麻衣~その1~

東京に生きる結婚しない女性の姿を描いた物語。今回の主人公は、海外ブランドの正社員で、都内の百貨店でアパレル販売員をしている、麻衣(36歳)。美人でモテる彼女が、独身の道を選ぶ理由とは……?

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従業員通用口を出て、新宿の街に出ると、青みがかった月の光が静かに体に流れ込んでくる。冷ややかに澄んだ真夜中の空気には、金曜日特有の浮かれた街の雰囲気が混じる。二宮麻衣はショート丈のトレンチコートの襟を立てた。ルブタンのパンプスの音も高らかに明治通りを歩きながら、今日、一日で売った洋服とその顧客を振り返る。

シルクのリトルブラックドレス、パールとスタッズがついたクラッチバッグ、テラコッタ色のマキシ丈スカート、襟に銀狐の毛皮を配したカシミアのコート……どれも新入社員の給料1か月分が吹き飛ぶようなプライスのアイテムばかりだ。

麻衣がブランドのロゴが薄く印字された薄紙に商品を包み、客にわたすと、こぼれんばかりの笑みを浮かべ、紙袋を受け取り店を出る。ありがとうございました、と言いながら、麻衣は百貨店にあるアイテムは、どれもこれも新生児のようだと思う。最初は傷も汚れもないが、使ううちにくたびれてきて、最後はゴミとして捨てられる。

この国の幸せは値札付きだ。お金がたくさんあれば、多くの幸せを手に入れることができる。麻衣が働く新宿の街では服、バッグ、靴、時計、ペット、クルマ、旅、そして若さや愛さえも、学問の必要性を説いた偉人が印刷された紙切れを積めば簡単に手に入り、罪滅ぼしさえもできる。

この製造コストが30円とも言われている紙切れで手に入れた“幸せ”の効力が、つかの間で終わってしまうものであれ、それで十分だ。それは、14年の販売員生活で心だけでなく体にも刻み込まれている。

今週、麻衣は勤務する百貨店の外商部に頼まれて、山陰地方に住む大金持ちの夫婦の東京観光に同伴した。彼らは3代にわたり年間で億単位の買い物をしてきた上顧客だ。

知的で整った容姿をしており、軽々しくお世辞を言わず、誰とでも一線を引いて付き合う麻衣を気に入ったのは、妻のほうだった。彼女たち夫婦は麻衣に会うために定期的に東京に来て、数百万単位の買い物をしながら、東京の最新スポットを巡る。

その夫婦はでっぷりと太っており、妻の方はいつも「いいわね、麻衣さんはいつもほっそりしていて。私も太らない体に生まれたかったわ」と言う。ばーか、と心の中で麻衣は思う。36歳、156cm42kg。この体形を維持するために、どれだけの手間をかけているか。サプリメントを飲み、エステに通い、それでも尻や腰に醜い肉の塊が付かないように、日々ストレッチをするなど努力を重ねているのだ。

怠慢な人間は、醜く太り、他人の努力の痕跡を見ようとしない……

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