堅実女子ニュース&まとめ 【東京深夜0時・結婚しない女】「家を買えば、愛だけで男を選べる」35歳弁理士・多恵子~その1~

東京に生きる結婚しない女性たち。今回の主人公は、弁理士として活躍している、多恵子(35歳)。彼女が最愛の父の死をきっかけに購入したものとは?

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カーテンの隙間から届く月明かりと、遠くでかすかに聞こえる赤ん坊の声。時計を見ると深夜0時だった。澤田多恵子はここ最近、真夜中に目が覚めて、朝まで眠れないことがよくある。明け方まで眠りと覚醒の間を行き来し、体の芯に疲れを残したまま、霞が関にある弁理士事務所に出勤する日が続いていた。

眠らねばと思うと目が冴えてしまう。多恵子はセミダブルの真新しいシーリーベッドを降り、ダイニングスペースへと向かった。珪藻土にリフォームした壁は、冷たい月の光を受けて青く染まっている。35年ローン、3800万円で購入したこの部屋の窓からは、スカイツリーが見える。

ここを買ったのは、父親の遺産である500万円が手に入ったからだ。去年の年末、65歳で定年を迎えた3日後に父親が急死したのだ。多恵子にとって父は特別な存在だった。父は中部地方の進学校から東京大学に進学した。大手の製薬会社に勤務し、役員まで上りつめた。職場結婚した母は旧華族の血を引く名門の出身で、有名な女子大を出ている。夫婦仲は円満そのもの。多恵子が中学校くらいまで、父は海外出張が多く、アメリカのカラフルな文房具、ヨーロッパのハイセンスな洋服や絵本を買ってきてくれた。

当時、まだ海外に行くことは特別だった。小学校の同級生からは“いいな~タエちゃん。パパが外国に行くってすごい”と羨望の眼差しで見つめられた。たまの休日には書斎で読書をしたり、ピアノを弾いたりして過ごしていた。

スポーツマンで背が高く整った容姿と、仕事に几帳面、金銭問題や異性問題とは距離を置きたい、という父の遺伝子は多恵子に色濃く受け継がれた……と思っていた。

誰もが知る由緒正しい寺院で行われた父の葬式に“その人”を呼んだのは母だった。彼女は50歳に手が届く年齢にもかかわらず、シースルーのミニドレスにグレープフルーツのような胸を押し込め、手慣れぬ手で不格好に焼香をする。厚化粧のアイラインはにじみ、化け物のようになっていた。お辞儀をしたときに胸の谷間があらわになり、親族席の男たちが見ていないフリをしつつ、そこに意識が集中していることがわかった。女たちは男たちよりさらに強く、非難的で冷たく説教臭い視線を彼女に浴びせていた。

一方で母は家紋付きの喪服を清らかに着こなし、薄化粧の肌は青々しく冴え鬼気迫るほど美しかった。喪主として毅然としてふるまう母と対比すると、その女は明らかに見劣りがした。その場にいる誰もが“愛人”だと理解し、母の心の広さに拍手を送った。

母は父の死に際し、寛大さを装って彼女を呼び、正妻の余裕と、愛人と正妻の格差を知らしめ、彼女を叩き潰したかったのだ、と多恵子は思った。それと同時に、女性にはダメな部分がないと男は性的に興奮しないのだ、とも感じた。

父の葬儀から10日後に、すべての遺品や遺産を整理し、母は多恵子と妹に分け与えた。

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