【東京深夜0時、結婚しない女】インスタ依存、自己愛が止まらない・利花(35歳)~その1~

【東京深夜0時、結婚しない女】インスタ依存、自己愛が止まらない・利花(35歳)~その1~

東京に生きる、結婚しない女性のストーリー。今回の主人公は、ITベンチャーで働く、桐山利花(35歳)。

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桐山利花が目覚めたのは深夜0時だった。反射的に枕元を探り、iPhoneを手にして写真SNSのアプリを立ち上げる。画面右下から2番目のハートのマークには「178」という数字が付いている。予想より少ない数にがっかりし、フォロワー数を確認すると、7967人だった。数時間前に確認したときより、3人も減っている。

利花の写真SNSのプロフィール欄には、プロがメイクし、エフェクトをかけて撮影した自画像が上げられている。その下には、“東京のOLのPhoto日記 甘いものと旅が大好きです”と絵文字交じりに入れている。35歳という実年齢を考えると、我ながら“痛い”と感じることもあるが、他人から“いいね”“かわいいね”称賛されるためには必要だ。甘く、キラキラしている女は、品よく愛らしい。個性の時代と言われながらも、商品化された理想や物語を疑いもなく受け入れて実行する女が愛されることを、利花は感覚的に知っていた。

フォロワーが3人も減った理由は明らかだった。昨夜、一人焼肉に行った写真をアップしたからだ。箸を持つ右手のネイルは、桜色のグラデーションで、人差し指に人気のジュエリーブランドの新作を着けていたが、一人焼肉は痛い。その“痛さ”が伝わってしまったのだろう。

このままではフォロワー数がさらに減ってしまうと危機感を覚えた利花は、キッチンに向かい、使い古した雪平鍋で牛乳を温める。半額シールがついた牛乳パックの賞味期限を確認すると4日ほど前だ。しかし、どうせ温めたところで飲まないのだから関係ない。

牛乳が程よく温まったら、電池式のミルクフォーマーを突っ込む。たっぷり泡立ててから、フランスのハイブランドの赤いマグカップに入れる。シナモンパウダーをかけ、小型の棍棒のような形のハチミツ用スプーンに蜜を含ませて添える。

ミルクの白、食器の赤、木製のスプーン、キッチンマットのブルー……すべてをバランスよく配置し、iPhoneで撮影する。しかし何かが足りない。そこで利花はテーブルにあったピンクのスイートピーの花をフレームに入れて再度撮影した。ミルクフォームのふっくら感が多少消えてしまったものの、納得がいくいい写真が撮れた。

“ミルク×シナモンは癒される #スイートピー#ラベイユ#L’ABEILLE#年度末#HERMES#真夜中のホットミルク#ホットミルク#甘くないと飲み物が飲めない#写真好きな人と繋がりたい#皆さまおやすみなさい#愛してる”

という文章を添えてアップした。マグカップを片手にキッチンに戻り、中身を流しに捨てた。半額シールが貼られている賞味期限切れの牛乳も捨てて、高級ブランドのマグカップを洗った。写真SNSを始めた1年前に買ったもので、撮影には頻繁に登場するが、まだ一度も唇をつけたことはない。内側にこびりついたホットミルクのたんぱく質を、爪の先でこすり落とし、その後は奈良の老舗蚊帳店の布巾で丁寧に拭いてしまう。

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