ライフスタイル 中村倫也の演技が最優秀助演男優賞モノ!演技バトルに見入ってしまう映画『ファーストラヴ』

最優秀助演男優賞モノの演技!

この映画は演技も映像も、その表現は驚くほどにハイクオリティです。北川景子は主演の華やかさを身にまとうのはもちろんですが、その完璧に思える美しさをぺろっとはがしたその奥の奥に、危うくゆれる弱い心を内包している由紀を体現します。

ものすごくキレイだからこそ、その崩れ落ちる瞬間を思って、観ているこちらが恐くなるような。そんな女優、なかなかいません。

そんな由紀が追う殺人事件の容疑者である環菜を演じるのは芳根京子です。土屋太鳳と共演した『累-かさね-』でも、彼女が“ただの若くてかわいらしい女優さん”ではないことを見せつけました。

今回もまた、環菜がどう映るか?が映画の成否を決めるほどの大役で、難役です。自分という存在を維持するために心に幾重もの壁をつくる女の子、しかも父親殺害という罪を犯した事実を前に、自分でも呆然としているようにも見えます。

そんな環菜が、由紀との接見を重ねることで突然に“壁”が剥がれて存在の核の部分がむき出しになり、つぎの瞬間、見ている側にとっては訳のわからない感情の奔流が起きて手がつけられなくなる――そんなぎりぎりなシーンの連続を、全身を投じるように演じていきます。

けれど断トツで圧倒的なのは、庵野迦葉を演じる中村倫也なのです。マジでスゴイ。ブチ切れするシャブ中とか衝撃のモラハラ夫、全身脱力した人たらしのモテ男、切れ者社長と、演じる役柄の幅はひたすらに広く、そのどれでもで的確に画面の中に存在してみせる――それが中村倫也という俳優です。

でも別に、いろんな役が出来てスゴイね! みたいな、ただのカメレオン俳優ではありません。ものすごい知的な解釈で、シーンごとにその役が担うべき在り方を緻密に計算し、しかもその計算なんてただの1ミリも観る者に感じさせず、でもその計算がなければ絶対に出来ないはずの表現を、この一瞬! というわずかな隙間へ確実にブッこんでいく。

この映画の彼は、超絶な腕前を誇る凄腕スナイパーのようです。相手の言葉を聞いたときのわずかな心の揺れ、相手の表情からその真意を見抜こうとする射るような目、本当にそれらを小さな目線の動きやセリフを言うまでのわずかな間で正確に表現していくのです。庵野迦葉の一挙手一投足に、文字通り目が離せなくなります。

本当にいちいちちょっと、息をのみました。個人的に、最優秀助演男優賞モノだと思います。

真壁我聞(窪塚洋介)と庵野迦葉(中村倫也)は兄弟。今回の窪塚は、超絶いい人。

演技はそれぞれに熱演レベルです。監督は堤幸彦ですが、そうさせる現場だったのでしょう。堤監督と言えば『ケイゾク』『池袋ウェストゲートパーク』や「TRICK」シリーズ、「SPEC」シリーズと、細かいカットを重ねるスピーディな映像や散りばめられた小さく笑える小ネタの集積が特徴的と言われる作風でした。けれど2005年の『明日の記憶』では、渡辺謙演じる主人公が味わう若年性アルツハイマーの恐怖を主観的な映像で表現して観客に体感させたり、全編モノクロの意欲作『MY HOUSE』を企画から手掛けたり、意欲的にばりばりと新作を手掛けながら監督としての表現を広げてきた人です。

今回も映像が饒舌ではありますが、とても洗練されていて、映像だけで多くを語るようでもあります。もちろん、邪魔になることなく。撮影監督との相性がいいのか、企みがピタリとハマっています。いずれにしても映画監督として、かつてない領域へ足を踏み入れています。

そしてタイトルの“ファーストラヴ”が意味するところ、映画を観終えてそれを想うと、切ない苦しさをも伴います。いろいろな意味で力作と言っていい1本です。

環菜を演じる芳根京子。この目!

文・浅見祥子

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