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国民全員が未知なるウイルスと戦い続けてきたこの1年。振り返ると、筆者は海外に行けなくなり、自然と「日本の魅力」へと意識が向いた1年でした。新緑が映える季節に新茶を急須で入れてみたり、釘を使わない日本の木造建築に感動したり。近くにあったのに、その魅力に気づけていなかったのです。
今回紹介する「江戸切子」も、存在は知っていたけれどその魅力に気づいていなかった日本文化のひとつ。切子の専門店「室町硝子工芸 白金店」でモダンに進化した江戸切子の奥深さを教えてもらいました。ゆっくり見て、手に取ると、ものすごいキラッキラでしたよ……!
洗練された江戸切子がそろう。小さな美術館のような「室町硝子工芸 白金店」

「室町硝子工芸 白金店」は、さまざまな工房の江戸切子を一同に見られる専門店。切子職人の手で作られた上質で洗練された切子をセレクトしており、和の空間に光をまとった切子が並べられています。店内はまるで小さな美術館のよう!
そもそも江戸切子とは、江戸時代に東京・日本橋で生まれ、180年以上の歴史を持つ伝統工芸品。ヨーロッパからもたらされたカットガラスがルーツで、ガラスを削りさまざまな模様が彫刻されています。

ガラスをカットして作られた商品はほかにもありますが、江戸切子は「ガラスである」「手作業」「主に回転道具を使用する」「指定された区域(※江東区を中心とした関東一円)で生産されている」という条件に基づき、江戸切子協同組合の組合員が作成したもののみを指します。
煌めきに心奪われる。職人が手がける「江戸切子のグラスの作り方」

江戸切子はまるでレーザーを使ったかのように見えるほど正確で美しい模様ですが、職人の「手」でひとつずつ丁寧に刻まれています。どうやって江戸切子ができるかを、グラスを例にご紹介。まずマーカーで目安となる線をつけ、回転する円盤状ダイヤモンドホイールでカット。最初はグラスの大枠を整えるために、目の粗いホイールで深く、速く、粗摺り(あらずり)をします。


次に、より細かい目のダイヤモンドホイールに変えて、ザラつきを滑らかに整えます。これを「三番掛け」と言います。そして江戸切子ならではの細やかな文様を、その文様にあったダイヤモンドホイールでカット。最後に「酸」もしくは「手」でグラスを磨くと、光をまといキラキラ輝きます。
実際のところ、飲むためだけのグラスなら、ほかのグラスでも問題はないのです。しかし職人の手によっていくつもの工程を経て作られた江戸切子のグラスは、その煌めきに心を奪われたり、氷を入れた時の音色に癒されたり、飲むという動作以上の価値をもたらしてくれます。
まるで宝石。煌めきと音色を楽しむクリスタルガラスの江戸切子

江戸切子の素材は「クリスタルガラス」と「ソーダガラス」の2種類があり、クリスタルガラスは柔らかいため細やかなカットが施しやすく、より美しい煌めきを表現できる素材です。ソーダガラスは硬さがあるため丈夫、そして手に入れやすい価格が特徴。
室町硝子工芸 白金店には上質なクリスタルガラスの江戸切子が数多く並び、小林硝子工芸所の「天開矢来オールドグラス」もそのひとつ。クリスタルガラスは氷を入れると「カラン」と澄んだ高い音が鳴り、その音色も醍醐味です。

天開矢来オールドグラスは伝統的な文様がデザインされています。「魚子(ななこ)文様」から上部に向かうにつれて「矢来(やらい)文様」へと移り変わり、底に刻まれているのは「菊つなぎ文様」。3種類の文様は異なる角度で光をとらえ、その輝きはまるで宝石みたいにキラッキラ……!
それぞれの文様に意味があるのも、江戸切子の面白いポイント。魚の卵が表現された「魚子」は子孫繁栄、矢が飛んでいるような「矢来」は魔除け、菊の花のように見える「菊つなぎ」は不老長寿の意味をもつとされています。

江戸切子は日々進化していて、食器のほか高度な技術が使われたアクセサリーも販売しています。太陽の下でより美しく輝く「ピラミッド・ピアス 菊つなぎ」は長さ1.8cm×幅1.2cmの小さなガラスがベースとなり、あまりに小さすぎるのでカットする時はかなり繊細な作業となるそうです。小林硝子工芸所の4代目・小林昂平さんが手がけています。
技術が結集した室町硝子工芸オリジナルワイングラス「SUI-REN」

室町硝子工芸にはここでしか買えない江戸切子も。「SUI-REN」は2020年12月に発売された室町硝子工芸オリジナルのワイングラスです。一般的な江戸切子のワイングラスは色がついているものや厚みがあるものが多く、「ワインの色や香り、味を楽しむ江戸切子が欲しい」という顧客の声を反映して作られた商品です。

SUI-RENにはボウルの下部分とプレートに文様が施されており、ボウルの文様は魚子文様。プレート部分の文様は2種類あり、「菊つなぎ文様」の「Kikutsunagi」と華やかな「蜘蛛の巣文様」から着想を得た「Nozomi」から選べます。
このワイングラスは江戸切子の伝統工芸士の技術があったからこそ生まれた商品。特にボウルの湾曲した部分はステムに当たらないように細やかな文様をカットする必要があり、ほかのグラスよりも高い熟練の技が必要なのです。
☆☆☆
日本の伝統工芸「江戸切子」を見て、触って堪能できる「室町硝子工芸 白金店」。今回、江戸切子の魅力を教えてもらった室町硝子工芸 白金店の村林さんと田嶋さんに「ぜひアートを見る感覚で気軽に立ち寄ってほしいです」とお話いただきました。お店はビルの2Fにあり、水曜日・金曜日・土曜日のみの営業です。ふらっと立ち寄って、モダンに進化したキラッキラの江戸切子を見てみてくださいね!
・室町硝子工芸 白金店
住所:〒108-0072 東京都港区白金5-13-6 2F
営業日:水曜日・金曜日・土曜日
営業時間:11:00〜20:00
アクセス:白金高輪駅もしくは広尾駅より徒歩12分、バス停「北里研究所前」より徒歩2分
HP:https://muromachi-glass-art.com/
取材・文/小浜みゆ