ライフスタイル 国際詐欺を乗り越え、おいしいバターの輸入にまい進する33歳の野望【後編】

イタリア最古の乳製品企業“BRAZZALE”が手掛けるプレミアムバター“Burro Superiore Fratelli Brazzale”の販売では、クラウドファンディングで2243%という驚異の達成率を叩き出し、ほかにも世界のおいしいバターや、ユニークさのある商品の輸入を行っている、株式会社テイゲン。

世界中の美味しいバターを探すECサイト「CRAZY BUTTER LOVER」を運営するなど、オリジナリティのある取り組みをしているこの会社は、どんな方が経営しているのでしょうか? リピーター続出のバター“Burro Superiore Fratelli Brazzale”を試食した【前編】に続き、株式会社テイゲン代表の石川 昇さんにお話を伺ってみました。

旅で訪れたモンゴルでひらめき!突然のバター輸入のアポ交渉

――石川さんはもともとバターがお好きで、バターの輸入を始めたのでしょうか?

「バターマニアというよりは、牧草を食べて育った牛でつくったグラスフェッドバターとMCTオイルというものを、コーヒーに混ぜて飲むと腹持ちがよくて痩せるという、バターコーヒーダイエットというのが流行った時期がありまして、僕も流行にのってやってみたのがきっかけです」(石川さん、以下同)

――糖質制限ダイエットの進化版といった感じのダイエットですよね。糖質制限をしつつ、同時に脂質やタンパク質をしっかり摂るのが基本。

糖質の代わりに体脂肪を燃やすことで、ケトン体というものがつくられるので、それをエネルギー源としていくという「ケトジェニックダイエット」のサポートアイテムとして、腹持ちがよく、ケトン体になりやすいグラスフェッドバターや、MCTオイルを摂取できるバターコーヒーを愛飲する人は多いですよね。

私は試したことがありませんが、バターコーヒーに使用するグラスフェッドバターやMCTオイルは、なんでもいいわけではないと聞いたことがあります。

「そうなんです。バターコーヒー自体はすごくいいのですが、このグラスフェッドバターが高いうえになかなか手に入らなくて。

ただでさえ身近なアイテムじゃないのに、さらに厳選しないといけないのかよって、勝手にグラスフェッドバターにイライラしていた時期があったんです」

――私も新しいモノ好きなほうではあるのですが、当時やっている人から話を聞いただけで、わあ、探したり面倒くさそうと思ってやりませんでしたね。

「今、自分は33歳なのですが、30歳までは企業に勤めていたんです。30歳になったから、3年くらいは自由にやってもいいかな、その間に自分の人生どうなるかな、とフラフラしている間にモンゴルへ旅をしに行きました。

モンゴルって、国土面積が日本の4倍あるのですが、人口は300万人しかいない。でも牛は1千万頭いる。

それならば、間違いなくモンゴルのバターはグラスフェッドバターだろうなと思ったのと、物価もかなり安いので、モンゴルのグラスフェッドバターなら激安で輸入できるのでは?と、浅はかでしたたかな考えがわいたのです(笑)」

牛たちものびのびとすごすモンゴルの草原

――旅先エピソードでおもむろにバターが登場するとは!

「それでスーパーにチェックしにいったら、案の定安くて、グラスフェッドであることも確認できたので、帰国する直前に、ガイドに『モンゴルのバター会社にアポイントを取ってくれ』とお願いしました。アポが取れたらもう1回モンゴルへ行くから、連絡くれと。

すると、2、3ヶ月後に本当に連絡が来たんです。バター会社にアポイントが取れたから来いと。当時、僕はフリーランスだったのですが、さすがに個人事業主のままで行くのはまずいだろうと、慌てて“バターを輸入する会社です”という定款をつくったのが、この株式会社テイゲンの始まりです。

突然のお願いにアポをとってくれた、ガイドのトスカさん。

そしてモンゴルへわたり、初めてテイゲンの名刺を渡し、日本へ輸入していいよという話になりまして。日本には大きな乳製品の会社が3社あるのですが、ありがたいことに、3社とも卸す契約ができたので、バターを輸入する人生が始まりました」

――えっ、そもそも会社員のころには、輸入関係のお仕事をされていたんですか?

「いえ、全然。手探りです。バターで個人向け(BtoC)と法人向け(BtoB)の商売を両方やろうと思って、モンゴルで日本に輸入する権利をくれといったら、あっさりといいよ~という話になり、わあ、うまくいっちゃった~という感じになったのが、2019年の12月のことです」

――やってみたらうまくいった!という順調な滑り出し!

「そう思って準備を進めていたら、2020年はコロナ禍に突入しまして」

――わ、いきなりの谷です……。

「モンゴルからの飛行機の便も減らされることになり、思うように輸入ができないと。でもバターに片足つっこんでしまっていた状態だったので、輸入できなくなったらまずいぞということで、モンゴル以外のバターを探し始めました」

――現地に行かれないような状態でどうやって探すんですか?

「単純に“italy”“butter”“company”といった単語で検索して、ランキングを見たり、カンパニーサイトを見たりして、さらに行きついたイタリアのECサイトのレビューを見たり……。そのレビューで書かれていた違うメーカーを掘っていったり……。そうやってバターをつくっている会社と商品を洗い出して調べるうち、おいしいバターをこだわってつくっている会社がたくさんあることを知り、グラスフェッドに限らず手がけてみたいと思うようになりました。今回のように“イタリアで230年の歴史があって”など、情報としてもおいしそうなポイントを伝えられそうな商品をピックアップして、そこからは鬼電です(笑)」

――輸入のご経験がないのに、すごい行動力! それできちんと輸入できるとは……。

「本当に全く経験がないので、国際詐欺にあって400万円くらい失いましたよ」

――えっ(いきなりハードな話がきたぞ……)。

「いろいろな国のバターを探していたのですが、本格的に輸入する前に、まずサンプルを輸入して確かめたいじゃないですか。で、南アフリカの会社がサンプルを送ってくれたのですが、コロナのせいで通関にひっかかてしまって。

モノが日本に入ればお金は返ってくるから、通関のお金をまず立て替えてくれと言われたんです。そういうものなのかな、と思って1回10万、20万と何回か支払いました。

おかしい気もしたのですが、同じ時期にスウェーデンの別の会社からもバターを輸入したいなと思い、同じようにサンプルを取り寄せる手配をしたんですね。すると、スウェーデンの会社からも同じことを言われたので、一般的にそういうものなのかと思って支払いました。

ただあまりも回数が多く、どんどん額がふくらんで、合計400万円くらいになってしまった。そこでJETROという日本の国際貿易の機構に相談したら『これ詐欺です』と言われて。

向こうが出してきたスウェーデンの商工会議所の番号みたいなものが、実在ではあり得ない字面だったようで、詐欺でしょうと。

僕は、起業した際に、公庫から創業金として500万円くらい借りていたんです。でもそれも詐欺でなくなり、その後、クラウドファンディングで成果が出たので、首の皮1枚つながったかなという感じですね」

――し、しびれますね!

「ハハハ! でも世界中のバターを調べまくり、取り寄せまくったので、今はバターマニアといっても差支えないくらいにはなったと思います。

自分が安くていいグラスフェッドバターを使いたいなというのと、グラスフェッドバターって火を通すと牛臭い味がするものもあって、それが、苦手な方もいらっしゃるんです。なので、そうならないグラスフェッドバターを探したいなっていうところから、世界中のおいしいバターを探して届けたいという気持ちに広がり、こんな形でズルズルとここまできました」

――お話伺ったら面白そうだなと思いましたが、まさかこんな短期間で波乱万丈なエピソードがあったとは、想像だにしていませんでした!

バター専門ECサイト「CRAZY BUTTER LOVER」おすすめアイテム

石川さんにプレミアムバター“Burro Superiore Fratelli Brazzale”以外のおすすめ商品も教えてもらいました!

手間ゼロでバターコーヒーが楽しめる「コーヒーブースター」

コーヒーブースター 各3000円(税込) モカ、プレーン、シナモン味。

「お手元のコーヒーにスプーン1杯入れるだけで、バターコーヒーが楽しめるアイテムです。ビジネスマン取り入れている方も多くて、朝ごはんを食べると血糖値上がって眠くなるから選ぶ人や、バターコーヒーだと集中力が高まるという人もいます。

僕も毎日バターコーヒーを飲んでいます。最近はプチ断食みたいな感じで、16時間食事の間をあける健康法があるんですが、自分も食べると眠くなって仕事の効率が下がるのがいやで取り組んでいます。でも空腹を我慢するのもいやなので、バターコーヒーはいいなと。

先ほども話したよう、バターコーヒーはグラスフェッドバターとMCTオイルというものを混ぜることで、空腹感を満たしつつ、オメガ6とオメガ3と呼ばれる不飽和脂肪酸のバランスを整えたり、脳にエネルギーを送ったりという健康法です。

でもグラスフェッドバターやMCTオイルを厳選して買わないといけなくて、さらに毎回自分で混ぜて……っていうのが面倒だな~~とう怠惰な自分もいて。それがスプーン1杯で解決できるのはいいなと」

グラスフェットバターとMCTオイルが混ざったコーヒーブースター。

コーヒーブースター1つで、一般的なスプーン1杯を毎回使った場合、30杯くらい飲めるので、毎朝1杯飲むとすると、1か月くらい楽しむことができるんだとか。

「似たような商品はほかにもあるのですが、この商品のいいところは、味変ができることですね。

やっぱり毎日飲んでいると、いくらバターコーヒーがおすすめといっても飽きる瞬間があり、違うフレーバーが楽しめるのは続けやすいと思います。

あと、確実にグラスフェッドバターを使っていることと、GMOフリー(遺伝子組み換え食品を使用していない)にこだわってつくっているメーカーなので、プロダクトに信頼がおけるというのも、取り扱い理由です」

筆者も初めてバターコーヒーを飲んでみましたが、コーヒーにコクとうまみが加わったといった印象で、思ったより飲みやすく、おいしかったです。

油が浮いていても、飲んだ後に口に嫌な残り方をしたりすることは皆無!

あと、本当にお腹がすかないのも驚きポイント。スチーマーなどでもっとかき混ぜると、クリーミーでラテみたいな口当たりになるんだそうです。

常温で保存OK!モンゴルのグラスフェッドギ―

近ごろスーパーでもよく見かける「ギー」ですが、いったいどういうものなのでしょうか?

モンゴル産グラスフェッドギー 130g 1000円(税込)

「バターの水分を全部飛ばしたバターオイルのことです。タイム誌などで健康にいい調味料ベスト10に選ばれて、ギーは一躍有名になりました。

しかしギーならなんでも健康にいいかというと、バターの水分を飛ばしただけなので、僕個人としては、そもそものバターが穀物を食べて育った牛からのバターだと、健康にいいとはいえなくない?という意見に同意していて。

でもグラスフェッドバターを原料にしたグラスフェッドギーをちゃんと入れているところって、多くないんですよ。あっても、すごく高いんです。

その中では、このモンゴルのグラスフェッッドギーは金額的にもお手頃で、加熱してもほかのグラスフェッドギーより牛臭くならないので、ギー初心者の人にもおすすめなんですよね」

液体状で使いやすい

――「ギー」ってどういう風に使うのがおすすめでしょうか?

「日本だとバターコーヒーにバター替わりに入れる人が多いいですが、海外だとスパイスからつくるインドカレーに使ったり。

バターとの違いは99.9%油分なので、常温保存ができるのが大きなメリットです。

バターだと冷蔵とか、すぐ食べないなら冷凍とか、冷凍したら解凍しなきゃとか、意外と扱いが面倒くさい。でもギーなら、ジャムの空き瓶とかに入れて直射日光の当たらない場所なら1年以上常温保存ができるので、使い勝手のいいバター感覚で使われていると思います。

もともとはモンゴルのバターを輸入したかったのですが、バターだと関税で金額が上がりすぎるのと、現地で売れすぎて輸出する余裕がなく、常温保存できるギーなら分けてもらえたという感じです」

「ギー」というととっつきにくさを勝手に感じていましたが「バターオイル」とわかると急に親近感!

たまたまこの日、スパイスで炒め物を作ろうと開いたレシピで、突然「ギーを入れる」と出てきたので、さっそく使ってみました。

最初からオイル状なので、すぐ広がって料理しやすく、バターの味わいはしっかりと感じられるという万能さに感動! 常温で長期保存できるのも、しょっちゅう自炊しない筆者にはありがたい仕様です。

山あり谷ありを乗り越えて……今後は何をめざす?

最後に、石川さんに今後はどんなことをしていく予定なのか、聞いてみました。

「直近では、オーストラリアのバターの販売を予定しています。グラスフェッドなうえに、パッケージもとてもかわいくて写真にも映える、日本初上陸のバターです。

でも最近気づいたのですが、日本人の年間でのバター消費量って、平均1kgくらいなんですよ。このオーストラリアのバターは1個250gなので、年間で4個くらいが平均消費量。

フランスなどだと平均5~10kgくらいの年間消費量なのですが、日本だとそうはいかない。

となると、どんなにおいしいバターを集めてきても、前のバターは使い終わってるのか……?と思ってしまって。

クラウドファンディングをやったことで、かなりのバター好きな方が一定数いらっしゃることはわかったのですが、どれくらいの消費サイクルなのかがまったく読めないんですよね。

日本は日本の酪農家を守るために、おそらく世界で一番バターの関税が高いうえに、冷凍で在庫を持つ費用も高い。さらに日本の酪農団体に払う調整金みたいなものも必要で、原価にどんどん乗ってくるんですよね。バターを輸入するのって、難しいんだな……と改めて感じています。

貿易のプロからも「石川くん、無謀だね」「死なない程度にがんばって」と言われました(笑)。

でも最初はモンゴルきっかけでしたが、「過去でいちばんおいしい」といったメッセ―ジをわざわざ送ってきてくださる方がいらっしゃったり、バターコーヒーもおいしいと言っていただけたりすると、励みになります。

一方で、個人向けの通販も初めての経験だったので、自分が至らずお客様にご迷惑をおかけしてしまうことも多く、毎日「わあ、ごめんなさい」の連続です。

ゆくゆくは、日本にもこだわって本当においしいクラフトバターをつくってらっしゃるメーカーさんもあるので、そういったところを広めたり、いいバターが流通するようなこともやれたら、400万円とか損もしましたが、やってよかったと思えるのかなというふうに着地点を見据えています。

さらには、モンゴルにバタ―工場をつくって、オリジナルバターをつくりたいなということも考えています。

モンゴルは道路も完全には舗装されていなくて、いろいろな牛がいるものの、道路が舗装されていないから牛乳が思うように輸送できないという問題もあるんですね。

なので、今扱っているモンゴルのギーの売上の一部は、少しずつモンゴルのパートナーに還元することをしていて、道路の整備とかの一部にあててもらいたいなと思っているんです。

モンゴルのパートナーのご夫婦と石川さん。

そういうのをこつこつ積み上げて、整備が整って工場がつくれたら、現地に雇用も生まれ、僕は手頃な価格の上質なバターを食べ続けられるというのを、夢見ているんです」

モンゴルから始まり、最終的な夢はまたモンゴルに帰結するという、壮大なビジョンを持つ石川さん。

でもトラブルに遭いながらも、できることをこつこつ積み上げていける石川さんなら、なんだか遠くない未来に実現しちゃいそうな気がしてきます。

バターを愛する方、石川さんを応援したい方は、今後の「CRAZY BUTTER LOVER」の動向をチェックしてくださいね。

石川 昇さんプロフィール

1988年生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒。新卒で専門商社に入社し海外セールスや複数の開発案件に関わったのち、リクルートキャリア(現リクルート)へ転職。東京・福岡にて採用から人事制度までHRM全体を支援。2019年にTEIGEN inc.を創業。同社代表としてバターをはじめとした世界中のおもしろい商品を探しつつ、複数社の人事顧問にも従事。

CRAZY BUTTER LOVER
https://crazybutterlover.com/