「密を避けたい」コロナ禍での移動手段として、選ばれる機会が増えたタクシー。今回は、1カ月間タクシーに乗り続けたという、和田成美さん(仮名・31歳)。その経験から、コロナ禍の東京の交通事情と、さまざまな背景を持つ、タクシードライバーとの交流についてお話してもらった。
【これまでの経緯は前編で】
タクシーは魔法の絨毯
タクシーに乗ったのは、1カ月間で25回。最初は天井が高いタイプの黒いタクシーを選んでいたけれど、10日目に個人タクシーを狙うようになったとか。
「最初は、“乗ったところから自宅まで届けてくれる魔法の絨毯”という感じで乗っていたのですが。10日目あたりに狙っている車種がつかまらず、個人タクシーのクルマに乗ったんです。それは、乗り心地が悪いから、最も避けていたエコカーでした。後ろのシートが直角で、乗っていると疲れるんです」
しかし、運転手さんがよかった。
「私は、自宅近くの大きな交差点を目的地に言っていて、その後道案内をするのですが、その運転手さんは、地元の人しか知らない用語で、交差点の右か左かを聞いてきたんです。“すごいですね”と言うと、“ハイヤーをやっていたんです”と。詳しく聞くと、ずっと企業のお抱えハイヤーをしていて、仕事がなくなったときに個人タクシーを起業したと。
その運転手さんの話では、個人タクシーの試験はかなり厳しく、法令試験と地理試験の二種類があり、地理試験が特に難関。年に1回しか試験はないそうのですが、3年以上無事故無違反なら免除される。しかし、運転手さんがお仕えしていた経営者は、忙しい。良かれと思ってスピードを出したところ、違反で捕まったことがあって地理試験を受けなくてはならなかったそうで」
地理試験は、営業地域の地名や道路、駅、ビル名などと、目的地までの最短距離や運賃、所要時間などが問われるとか。
「私が乗っていた運転手さんは、それを暗記していました。旧地名なども知っていて、生き字引みたいな感じでした」
話も穏やかで控えめで楽しく、あっという間についてしまったとか。どのような内容を話したのだろうか。
「そう聞かれると、黙って話を聞いてくれたのかも。私の仕事のグチを“それは大変でしたね”などと聞いてくれました。“この人になら話してもいい”という安定感があり、産業医以上の傾聴力にびっくりしました」
リピートしたいと思いながらも、タクシーは一期一会。
「つかの間の人間関係だからいいんだなと。よく考えると数十分間、見知らぬ他人が同じ空間にいるって、なかなかないことですよね。タクシーはレジャーなんだなと思いました」
運転手は人格が9割ではないか