今回は、若いころにしくじった後に立ちあがったという、野崎麻美さん(仮名・32歳)のお話を伺った。彼女は自らを「親ガチャに失敗した」と言う。親ガチャとは、若者の間で話題になっている言葉で、“親は選べない”という意味で使うのだとか。現在は、都内の施設管理会社の運営マネージャーとして正社員で働いている。
【高校を中退するまでの経緯は前編で】
生まれて初めてほめられた
高校を中退してからは、コンビニのバイトをしたり、夜の仕事をしたり。ヤンキー仲間の家や彼氏の家でフラフラしていた。
「バイトも長続きしないし、ホテルや施設の整備など、いつか正社員になれるかも?という仕事は全部断られました。高校を出ていないと、こんなに大変なんだと日々実感していました。18歳のときに運転免許を取ってからは、仕事の選択肢が広がったのですが、それだって周囲からは中卒だとバカにされているのがわかる。私、いじめられっ子だから、そういうところに敏感なんです」
その後麻美さんは、お弁当屋さんの厨房でアルバイトをし始めたという。そのときに、同僚だった50歳くらいの主婦の女性が、「あなたは、私の娘と同じくらいなのよね。働いていて立派だわ」とほめてくれた。
「生まれて初めてほめられました(笑)。ほめられるって、あんなにうれしいとは思いませんでした。私はそれまで、“まともな世界の人”と関わりたくなかったんですよ。だってだいたいが説教されたり怒られたり、“かわいそうね”と憐れまれたりするだけだから。だから関わり合いたくなくて、ツンケンした態度をとっていたんです。なので、そのとき話しかけられても、無視していました。それなのに、あのおばちゃんは、私のことをほめてくれた。びっくりして何も言えませんでした」
その女性は、「偉いわね」という上から目線ではなく、「立派だわ」と言ってくれたのがうれしかった。
「いろいろ考えてくれる人で、すごく憧れてしまったんです。そこまでお話はできなかったんですけど、すごく好きになってしまいました。私は母親をほとんど知らないので、“お母さんってこんな人なんだろうな”と思いながら、いつも接していました」
彼女の立ち振る舞いや言葉を観察しているうちに、勉強しようと思いったったのだそう。
「そこで大学に行っている友達に相談したら、高卒認定試験を受けたらいいと言われたんです。当時、彼氏もいなくてヒマだったから(笑)、勉強してみたら、意外と面白くてハマってしまいました。知らないことがわかるのってこんなに面白いんだな~と。独学していたら2年目になんと合格できたんです」
そのとき麻美さんは20歳。高卒認定試験に合格したら、明らかに周囲の風当たりが変わったという。「すごいですね」などと言わるようになり、仕事も以前よりグンと選べるようになった。
「全然変わりましたよね。子供の頃の夢だった、用務員さんにもなれるんじゃないかと思っていたら、学校の管理などをしている会社を見つけ、そこで働くことになりました」
高卒認定試験に合格して、長く勤務するようになって、人からの反応が変わった