超名門私立大学の経済学部を卒業した下山巴瑞季さん(仮名・30歳)は、最近9社目のIT関連会社を退職した。その会社は、急成長しており、社会的な常識を尊ぶ人からは、「もったいない」と言われるという。
【これまでの経緯は前編で】
リモートワークをしていたのは、私だけだった
9社目の会社は急成長している。だからこそ仕事も急ピッチに進められたという。
「壁にスティーブ・ジョブズの言葉”Stay hungry, stay foolish”(ハングリーであれ、愚かであれ)って言葉や、ザッカーバーグの“Done is better than perfect” (完璧を目指すよりまず終わらせろ)って言葉が書かれていたんです。私にもどんどん案件が振られてきて、“SNSマーケティングの手法は、eスポーツでも使えますか?”とか“コンテンツを活用する有効な手法はなんでしょうか”などと聞かれても…わかりませんよ。“エンゲージメント率が7%なら合格と言えるでしょうか”と言われてもぼんやりとしかわからなくて」
去年の入社時はリモートワークも認められていたから何とかなった。しかし、ここ半年くらいは、「コミュニケーションの品質を確保するために、全員出社をベースにせよ」と号令がかかった。
「できればずっとリモートしていたかったのに、出勤せよと言うから朝10時-19時の定時までオフィスに行くことになったのですが、これが苦痛でした。まず満員電車に乗らなくちゃいけない。新型コロナが怖いから時差にしてほしいと言っても、“下山さんこそ早く来てください”と言われました。それは、今までリモートワークをしているのが私だけだったからなんです。後で知ったのですが、実はコロナ禍でもみんな出社していたんですよ」
疎外感、よそ者感は、巴瑞季さんが転職を繰り返す一つの原因だ。
「ベンチャーの場合、創業時からいる人がガチっと団結していて、私みたいなのは単なるよそ者という感じになり、どこに行っても疎外されていたんです。チームに入れないことがすごく苦しくて。この会社も、久しぶりに出社したら、私が抱えていた案件はすでに他の人に手に渡っていました」
その他の社員は「やっと来たか」という表情を浮かべ、お客さんのように巴瑞季さんと接するようになった。
「仕事がデキないってすでにバレたんですよね。私なりに頑張ってはいるのに、認めてもらえない。そうなると朝起きれなくなるんです。あるとき、10時に目覚めて準備をしていたら、年下の上司から鬼のように着信が入っていました。こわごわと取ると“どこにいるんですか。今日は営業会議ですよ”と言われました。“会社の近くの駅にいるんですけれど、体調不良で立ち上がれません”と咄嗟に言ってしまったんです」
すると上司は、「どこですか? 今、バイトを迎えに行かせます」と言う。巴瑞季さんはまさか家にいるとも言えず「ここがどこだかわからないくらい、体調が悪いのです。あと30分待ってください」と言い電話を切る。その後の着信は無視して、会社に向かった。
「すると、上司は“体調不良は大丈夫ですか?”と言い、私が抱える案件を精査し始めたんです。業務管理システムから、私が締め切りを勝手に移動したことなども指摘してきて、理由を聞いてきました。すると頭がボーッとして…倒れてしまったようでした。気づいたらソファに一人で寝かされてました」
転職してきた私のことを誰も助けてくれない