「自分はどうしたいか」が最優先事項
私は「なぜ悟さんが、考えていることがわかるのですか?」と質問しても、貴子さんからは明確な答えが返ってきません。
例えば、ブランドショップで見かけた女性が、一体誰なのかについても、貴子さんは知らないし、それが夫の浮気の決定的な証拠かというと、そうでもないのです。
そこで、私は貴子さんに「悟さんへの愛情がなく離婚をしたいのならそうすればいい。でも、悟さんへの愛情があるのに、とにかく離婚が最善の方法と思ってしまっているなら、まずは二人の関係改善に取り組んでみてはどうでしょう」とアドバイスしました。
聞く限り、悟さんにも大きな問題があります。男尊女卑にモラハラ、横暴と思えるような言動など、ひどい部分だらけです。しかし、こういう男性は“競争を勝ち上がってきた”ハイスペック男性に多い。
一方、貴子さんは貴子さんで、そんな悟さんと向き合うことなく「この人はこういう人だったんだ。この人の考えはこうなんだ」と勝手にレッテルを貼って、スルーし続けて、心を閉ざしてしまっていた。これは分析が得意で、余計なトラブルを避けるハイスペック女性に多い思考と行動です。
貴子さんは「離婚を決める前に、夫婦間のコミュニケーションを改善したい」とおっしゃるので、貴子さんにはコミュニケーションのトレーニングをしてもらい、しばらくは悟さんと向き合う努力をしてもらうことにしたのです。
その方法は、まず自分を愛する。自分の努力と思考は“自分に合っている”と自信を持つ。そして鏡に向かって毎日笑いかける。それを続けつつ、あいさつを自分からする、悟さんが家にいるときは特に、自分で自分の機嫌をとる。
できる・できない、正しい・正しくない、勝つ・負けるではなく、“自分はどうしたいのか”に軸足を据えて夫と向き合っていくのです。
それから数か月後、貴子さんと悟さんの関係は、驚くほど改善しました。会話が生まれ、お互いの考えを理解し合うことができたからです。
浮気疑惑も解決しました。以前お店で一緒にいるところを見かけた彼女は悟さんの会社の部下で、その夫は悟さんの元部下。彼女の夫の誕生日プレゼントを選んでいただけだったのです。
男尊女卑かつモラハラ的な言動も「父親が、夫としてそうあるべきだ、と言うし、ウチはそれでうまく回っていたから、結婚生活ってそういうモノだと思っていた」と説明したそうです。悟さんは超名家育ち。その内情を知るからこそ、貴子さんも納得がいったのです。
そして結婚7年間のうちの6年間、貴子さんを幸せにできなかっただけでなく、心身を削ってしまっていたこと、それを察することができなかったことを、悟さんは泣いて謝ったそうで、それを見た貴子さんも泣いてそれを受け入れ、夫婦の間のしこりが消えて無くなったそうです。
それから半年後、貴子さんは妊娠。コロナ禍を機に拡大しすぎた事業を売却するなど整理しています。悟さんも超激務の会社から、社会的意義のある会社に転職。収入が1/10になることもあり、ドヤれるタワマンから、住みやすく自然が多い家に引っ越し、これから始まる“家族の人生”に備えているそうです。
貴子さんは、「今まで、自分が我慢をすればいいと思っていました。でも、自分がどうしたいか、何を考えているかを、フラットに伝えることが大切なんですね」と幸せそうに語っていました。
