「自分で決断すること」から避けていた
それからの落ち込み方は筆舌に尽くしがたく、落ち込んでボロボロになり、自分を責め続けました。そして、責めるのに疲れるとボーッとしてしまう、ということを繰り返したのです。
麻美さんは親からも攻撃的な物言いや行動をされたことがなく、美由紀さんに汚い言葉でののしられたことは、人生初の暴力体験でした。なので、その現場……つまり職場に行くと、恐怖がフラッシュバックしてしまう。また、噂も広まってしまっているので、仕事にも戻れません。結局、有休消化して退社することにしました。ちょうど、早期退職者を募っていたこともあり、いい条件で会社を辞めることができたのです。
そして、自分の部屋にこもって、3か月間をボーッと過ごします。体重は5キロ落ちていました。
あるとき、母親から「あなたは若いし、能力があるのだから、もう一度、がんばりなさい」と励まされたと言います。父親からも「麻美を必要としている人はたくさんいる。仕事をしなさい」と激励されました。
失意から立ち上がったところで、「仕事しないかという声はかかっているけれど、こんな私がまた仕事をしたら、またしても不倫男に狙われるんじゃないか」と不安になり、私のところに訪ねてきたのです。
私のオフィスを訪れてきた麻美さんは、これまでの経緯を話し、さらに大学時代からの男性遍歴……見事にダメ男ばかりでしたが……を説明した後、「私にまともな仕事と恋愛はできますか?」と私に聞いてきました。
それに対して、私は「麻美さんは、男性のことを表面上の優しさや条件で判断していませんか?」と聞いたところ、麻美さんは、ハッとしました。
不倫体質の女性に多いのは、「傷つきたくない」という自己防衛本能が高いこと。そして相手に決断を委ねたがるのことです。既婚男性は、女性の扱いに慣れている。自分で決断したがらない女性の代わりにサクサク決め、自分の都合のいいように、“遊びに付き合う相手”として扱うことが多いのです。女性からしてみればラクです。黙ってついて行けば、それなりに楽しい時間が過ごせる。これに慣れてしまうと、普通の同世代の男性が霞んでしまう傾向が高まります。
このことを説明すると「まさに私がそうでした。相手の行動を疑わず、自分の意見を言わない。先生や親の言われたとおりにしていたら、それなりに大切にされた。浩紀さんのこともおかしいなと思いながらも、嫌われたくないこともあって、思考停止していました」と泣いていました。
それから、1カ月間、麻美さんは、自分の意見を言う練習をしています。お店でのオーダーなども、他人の言いなりにせず、自分で決めていく。これは慣れていないととても辛いのです。
「最初は面倒でしたが、今は、なんで今までは自分で決めなかったのかと不思議に思うくらいです。幼いころから希望していた海外勤務に向けて、転職活動を始めました。コロナ禍でも多くの海外勤務の求人があり、すでに1社内定を得ました」
弾むような声で話す麻美さんからは、1か月前の意気消沈していた姿が想像できません。自分で決めること、決断に自信を持つことから、未来は開いていくのかもしれません。
